Where is dogooooo Chapter 3
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度重なる天変地異の末、地球の陸地は姿を変え、そのほとんどが水没していた。
しかし主要な機関も、娯楽も全てメタバースへの移管が進み、人口減も良い方に作用し人々の幸福度は概ね高かった。
メタバースが分散型プラットフォームに成立してから100年程度が経ち、表面的には新しく更新され続けてきているが、その下層にはまるで現実の地層のように幾重にも過去の遺産が残されていた。
一つ一つの層がブロックチェーン上でその結びつきを証明しており、失われつつある大地よりももっと現実的なものとして人々の興味を引き付けている。
最近ではその遺された遺産を掘ることがブームになっていて、専用のマーケットプレースも用意されている。
自分の土地の地面を掘って、埋蔵品を探して売るのと同じ様なことだ。

ケコはニホンオタクで、ニホン由来のメタバースの土地やアートを収集している。
ニホンの土地はほぼ全て水没しているが、ネットに残された動画やメタバース上に再現されたワールドのおかげでその姿は色あせることなく遺されていた。
非常に興味深いことに、現存するワールドの起源を掘り起こしていくと、現在と過去の関連性はとても高く、ただ闇雲に発展し広がってきたわけではないことがわかる。
いつの時代でも、例え物体からデジタルに移行しようとも、人類が歴史に敬意を表してきたことがそこから感じられるのである。
特にニホン由来のブロックチェーンから読み取れるコミュニティは世界的に見るととても小さく、結びつきが強いことが感じられるし、アジア独特のムードもあって、ケコにはとても魅力的であった。
絶対数の少なさからもレアリティが高く、物によってはとても高値で取引されることも多い。
その夜もケコはメタバースの「陸地」を掘っていた。
友人たちとメッセージをやり取りしながら、マニアックなニホンの遺産について語り合ったりしながら。
友人のトオルはルーツがニホンにあるが、ほとんどアメリカ人である。
彼はドグーシアターパーク跡地をかなりの金額をかけて掘り進め、ニホンの伝統的なキャンディーを見つけ出して歓喜していた。
それをAIに再現させるべくレシピを探すことに躍起になっている。
そのあまりの「クソレアさ」を仲間たちは笑い楽しみ、ケコもシアターパークのインスクリプションを軽く漁って共有して遊んだ。
そこはニホン由来の土地だが、ニホンオタクの遊び場として今ではほとんどケコたちの庭の様な物だった。
そのワールドはいくつも点在しドグーと名付けられたキャラクターと共に存在していたが、その全てが大元の一つのワールドから派生していて結びついていて、55点の単純なインスクリプションに紐づけられていた。
55点の図版はおそらくニホンのなんでもない風景の一部であったため、ケコたちの様なニホンオタクの心をそそるには十分だった。
数が少なく希少なためもはや手に入れることはケコには不可能であったが、その一枚一枚をぼんやりとサーチしていく中で、ふとケコはそのインスクリプションのアカウントに紐づけられ、階層の奥深くに眠る、同年代に作られた一連のデータ群の存在に気がついた。

それらは見た目からして3Dデータのドグーであったが、ドグー一つ一つにキャラクターが与えられ、名前が付けられているのを目にするのはケコは初めてであった。
Ayase, Shibuya, Honkugenuma...サーチするとそれらがニホンの地名であったことがすぐにわかった。
ケコは55枚の図版と地名の名がつけられたドグー、ニホンの一角で生きていた一人の人物のことを想像した。
不思議と地上の空気やその匂いを感じるような気がして、触れることのない埋蔵されたデータに奇妙な親しみを感じるのであった。

そして、さらに探っていくと、驚くことにそのデータ群はまた膨大で雑多な、主に画像のデータと関連づけられていた。
おそらく今まで人々に忘れ去られていたであろう、巨大な遺跡のようにその膨大なデータ群はケコの前に姿を表した。
それはメタバースが「陸地」のように不動の地層を築き上げていたのと比べて儚く、雑然としていたが、混沌の中一つにまとまっており、「陸地」に大して「大海」のようにたゆたっていた。
ケコたちはAIにその役割を託したので、自分たちでそのような創作をすることなど、もはや想像すらできなくなっていた。
AIに指示するときのソースとして、それらの画像が参照できるだろう。
そう思うだけだが、その原始の地球を思わせる大海に、ケコは自分自身も埋没し、漂ってみたいと夢想するのであった。